筆跡鑑定

 

検査方法

 目視検査のみでは,鑑定人によって着目する筆者の個性や特徴のとらえ方に偏りやばらつきが生じ,判定結果も異なるなど信頼性の低い結果となります。しかし,近年では法科学警察によって確立された検査手順の他,目視検査においてもコンピュータグラフィックを用いた新しい手法が併用できるようになり,より信頼性の高い文字の比較検査が行えるようになりました。また,最新のコンピュータによる数値解析では,鑑定人の主観にとらわれずに,客観的に筆者の個性を比較することもできます。弊所ではこれらの手法にいち早く着目し,特許技術を取得しており(「筆跡鑑定支援プログラムソフト(特許第5697705号平成27年取得済」),これらの鑑定手法に基づいた客観的で信頼性の高い検査を行っています。

1.ご依頼内容(鑑定事項)

 契契約書,受領書,遺言書(自筆/公正証書),書留,郵便はがき,脅迫状,誹謗文書,投書,届出書(養子縁組届)など,鑑定対象となる筆跡について,以下のような検査が行えます。

(1)住所氏名等の筆跡が本人か否の特定か

(2)誰が偽造した筆跡かの特定

(3)日付・金額等が後から記載された,又は,改ざんされているか否か

(4)日付・改ざんされているか否か

2.鑑定資料機材

 筆跡鑑定に用いる装備には,ニコン社製実体顕微鏡,キーエンス社製VHZ-1000Rマイクロスコープ,キヤノンマクロ撮影専用レンズ各種および赤外線対応デジタル一眼レフカメラ,EPSON ES10000Gスキャナー,筆圧痕検出装置 ESDA,科学捜査用特殊ライト(ALS)筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムソフト「Characom imager Pro」(以下CCIPと省略する)(特許第5697705号取得済)などを使用します。


筆圧痕検出装置 ESDA,筆圧痕の検出し書類が作成された下書きや書き損じなどの痕跡が観察できます。


書類や筆跡が偽造されていないか,筆記具のインクの成分や印刷色材の比較検査が行えます。


キーエンス社製VHZ-1000R,高倍率・高精細で,筆跡・印刷・印影の細部の検査が行えます。

3.外観検査および鑑定対象筆跡全体の検査

 契契約書,受領書,遺言書(自筆/公正証書),書留,郵便はがき,脅迫状,誹謗文書,投書,届出書(養子縁組届)など,鑑定対象となる筆跡について,可能な範囲で筆圧,筆勢,調和性,書写技能,筆記具の影響,書字目的の影響などを考慮するとともに,書体の違い,あるいはくずし字,異体字,誤字などの特異的な文字の有無,加筆や訂正の有無,文字列の整列,配字の状況,模倣(もほう)や韜晦(とうかい)を含む不自然な状態の有無などの検査を行います。

(1)鑑定資料⇔鑑定資料の種類や外観を記録する】

 契契約書,受領書,遺言書(自筆/公正証書),書留,郵便はがき,脅迫状,誹謗文書,投書,届出書(養子縁組届

(2)鑑定資料の外観所見 ⇔【鑑定資料の外観と内容の外観所見】

 用紙の種類や大きさ(ノート/日記帳/家計簿/手帳/便箋),書式(縦書き/横書き),文書形態,書字目的(届出書/手紙/メモ),筆記具,複製文書(感圧複写式/フォトコピー),配字,文字の大きさ,文字間隔,特異字(誤字/誤用/異体字/当て字),記載時期

(3)鑑定資料 ⇔【鑑定資料の種類や外観を記録する】

 配字の傾向,文字相互間の大小,文字の外形(縦横比),文字の続け書き,文字列や文字の揺れ(乱れ行頭,行末,行間の安定性),文字の重ね書きなどの検査,字画構成を主とする検査,一字の構成

4.文字ごとの検査

 

 文字ごとの比較検査では,コンピュータによる文書鑑定支援ソフト(CCIP)を使用し,文書鑑定工学的検査を併用しながら目視検査を行います。CCIPでは,まず,各文字の重心を求めます。下図に示すように,文字の画素が,縦横方向から均等となる部分を文字の重心とし,文字の重心がたえず画面中央に表示されるように自動で位置を決定し,自動で文字を同じ大きさに揃えることができます。すべての画素に対して重心からの距離を算出し,その距離の平均値が絶えず一定の値になるように,文字の大きさを自動的に拡大,縮小させて文字を表示させます。これらの処理を基準として,本鑑定での対照文字をコンピュータ上に表示させ,文字の比較検査を行っていきます。これにより,目視検査を行うとき,文字の大きさや太さが異なった文字でも,常に同じ大きさに揃えて文字を目視,計測することができるようになります。本鑑定では,氏名や各文字の大きさを揃えて文字画像の重ね合わせ処理や字画構成,字画形態の比較検査を行います。さらに必要に応じて,文字を構成する部分間(偏(へん)や旁(つくり)など)の外接矩形(文字の上下左右端を四角形で囲む枠線)を検出し,高さ,幅,面積,重心の座標,重心からの距離を字画ごとに求めて,数値計測による比較も行います。したがって,文字の大きさを揃えることで,目視検査のみでは行えなかった各文字間の長さ,角度,面積等を同条件で客観的に詳細な比較をパーソナルコンピュータによって行うことが可能となります。このように,筆跡の個人内変動の有無とその範囲や状態について,目視検査と文書鑑定画像工学的手法からのダブルで検証を行います。

 


 文字の重心を検出し画面中央に合わせることで,偏や旁など各部分間の矩形の大きさ・面積・重心からの距離の計測検査を行うことができます。


 文字の重心基準として,文字の大きさを正規化し,細線化文字による重ね合わせ検査を行います。

 

5.筆跡数値解析検査



 1文字を8×8の64個の領域に分け,領域ごとに4方向の強さを数値に変換したもの。1文字の特徴は64領域×4方向分=256個の数値で表すことができる。

 数値化された特徴から,対照筆跡(本人の筆跡)(赤色)の平均値とばらつき(個人内変動)を求めます。次に,鑑定対象となる筆跡(青色)の特徴を対照筆跡の平均値と比較します。

 

 本鑑定では,筆跡鑑定支援ソフトCCIPを用いて,筆跡数値解析による比較検査を行う。文字パターンから筆者の特徴を1文字あたり256個の数値に変換する。文字の特徴化には,加重方向指数ヒストグラム特徴法と背景伝搬法のいずれかを用います。これらの方法は,日本法科学技術学会や日本鑑識学会等で筆者識別や筆者照合に有効性があることが報告されています。
加重方向指数ヒストグラム特徴法とは,まず,正規化された文字の輪郭線を求める。次に,1文字の画像を縦横8×8の64領域に分割し,各領域の4方向(横,斜め,縦,斜め)に伸びる輪郭線画線の方向性の強さを数値で表す。

6. 総合判定⇔【検査結果を総合的に検討】

  • 条件に対する考慮
  • 検体筆跡の検査結果の全てを総合した判断,筆跡の同一性に関する検討
  • 比較検査における類似性や相違性を排除できる理由(結論に至る経過)

7.検査結果⇔【認める・推定する・類似性が高い・類似性が示唆・不明】